筋硬結とトリガーポイントを医学研究から解説
肩をもんだときに感じる「ゴリゴリ」。
「老廃物が溜まっているから」と説明されることがありますが、実は医学的にはその説明は正確ではありません。
この記事では、肩こりのゴリゴリの正体について、医学研究にもとづいて作業療法士の視点から解説します。
・ゴリゴリは「筋硬結」や「トリガーポイント」として研究されている
・老廃物・乳酸が固まるという説は医学的に支持されていない
・ただしコリのある部分で発痛物質が停滞することは報告されている
・正体は筋肉・筋膜・結合組織の複合的な変化と考えられている
・筋膜の滑走性低下(ヒアルロン酸の凝集)も注目されている
肩こりのゴリゴリは「筋硬結」と呼ばれることが多い
肩こりで感じるゴリゴリした部分は、医学的には筋硬結と呼ばれることがあります。
筋硬結には次のような特徴があります。
・筋肉の一部が硬くなっている
・押すと痛みがある
・周囲の筋肉より硬く触れる
肩こりでは特に上部僧帽筋にみられやすいとされていますが、肩甲骨の内側(菱形筋)や首の付け根(板状筋)にゴリゴリを感じる方も多くいます。
筋硬結の発生メカニズムとして現在有力とされているのが「エネルギー危機説(Energy Crisis Theory)」です。筋肉が縮みっぱなしの状態になることで血管が圧迫され、酸素不足に陥る「エネルギー危機」が起きていると考えられています。これが血流の滞りや発痛物質の蓄積につながるとされています。
トリガーポイントという概念
肩こりの研究では、ゴリゴリした部分は筋筋膜トリガーポイント(MTrP)として説明されることが多いです。
トリガーポイントとは、筋肉の中にできる緊張した索状部(taut band:ピンと張った紐のような帯状の硬さ)と、その中にある圧痛点として定義されています(Simons et al., 1999)。
この部位を押すと、押した場所だけでなく離れた部位にも痛みが広がる関連痛が生じることがあります。
トリガーポイントは有力なモデルですが、診断方法の標準化や再現性にはまだ課題があります。現時点では確定した病態とは言い切れない点に注意が必要です。
画像研究では硬さの違いが確認されている
近年は超音波やエラストグラフィなどの技術により、トリガーポイントの研究が進んでいます。
システマティックレビューでは、トリガーポイント部位は周囲の筋肉と比べて硬さや組織特性が異なる可能性が報告されています(Mazza et al., 2021)。
ただし、診断方法の標準化や再現性にはまだ課題が残っており、研究が続いている分野です。
最近の研究では筋肉だけの問題ではない
最近の研究では、ゴリゴリした部分の正体は筋肉だけでなく、「ファシア(筋膜などの結合組織)」を含む複合的な変化である可能性が示されています。
具体的には以下のような変化が報告されています(Zhai et al., 2024)。
・筋膜の肥厚(膜が厚くなり弾力性が低下すること)
・結合組織の線維化
・微小循環(細い血管の血流)の変化
・炎症性変化
また近年の筋膜研究(Stecco et al.)では、組織同士の滑走(滑り)を担うヒアルロン酸が高粘度化(ベタベタした状態)することで、組織の動きが制限される可能性も注目されています。
つまりゴリゴリは「筋肉のしこり」というより、筋膜の滑走性低下を含む組織全体の変化として理解するのが現在の考え方です。
「ゴリゴリをほぐせば治る」と思っている方も多いですが、ゴリゴリは症状の一側面に過ぎません。筋膜の滑走性や組織全体へのアプローチが重要な理由がここにあります。
筋膜リリースについて、さらに詳しく知りたい方は、専門家が執筆した筋膜リリースの本が参考になります。
「老廃物の塊」という説は医学的に支持されていない
マッサージ店などで「老廃物が溜まっている」「乳酸が固まっている」と説明されることがありますが、現在の医学研究ではこの説は支持されていません。
確かに、コリがある部分では血流が滞り、痛みを感じさせる物質(発痛物質)が一時的に停滞することは報告されています。トリガーポイント周囲では、サブスタンスP・ブラジキニン・サイトカインといった化学物質の濃度上昇が確認されており(Shah et al., 2008)、局所的な生化学的環境の悪化が起きていると考えられています。
しかし、それが「目に見える塊」や「乳酸の結晶」として存在するという証拠はありません。乳酸は運動後でも比較的短時間で代謝されます(Brooks, 2020)。
「老廃物の塊」は存在しないが、コリの部分で発痛物質が停滞し、局所的な化学的変化が生じていることは研究で確認されています。「何も起きていない」わけではありません。
まとめ
肩こりのゴリゴリは、筋硬結やトリガーポイントとして研究されていますが、その正体は筋肉・筋膜・結合組織の複合的な変化と考えられています。
「老廃物の塊」という説明は医学的には支持されていませんが、コリのある部位で発痛物質が停滞し、生化学的環境が悪化していることは事実です。ゴリゴリをほぐすだけでは根本的な解決にならない場合があります。
肩こりの背景には、筋肉以外にもさまざまな要因が関わっています。詳しくは以下の関連記事もあわせてご覧ください。
■ 参考文献
- Simons DG, Travell JG, Simons LS. Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual. 1999.
- Mazza C, et al. Imaging of Myofascial Trigger Points: A Systematic Review. Diagnostics. 2021.
- Zhai X, et al. Advances in Myofascial Trigger Point Research. Pain Research and Management. 2024.
- Brooks GA. The Science and Translation of Lactate Shuttle Theory. Cell Metabolism. 2020.
- Shah JP, et al. Biochemicals associated with pain and inflammation are elevated in sites near to and remote from active myofascial trigger points. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2008.
※本記事は医学文献にもとづく情報提供を目的としており、個別の診断・治療を推奨するものではありません。首や肩の痛みが強い場合や、しびれ・発熱・症状の悪化がある場合は、医療機関にご相談ください。




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